確かこれが単行本で出版されたときに買ってはあった。読んでいなかったので映画公開のこの時期に読んでみようかと思ったが、本棚のどこにいったのかわからないし、文庫本で出ていたので買って読んでみた。
悠想という熟語はない。あるのかもしれないが、ぐぐっても出てくるレベルの熟語ではない。
「悠」ははるかとかゆっくりという意味。
「想」は思うとか考えとかいう意味。
つまりこの作品は茶沢景子の住田に対する思いを綴った小説だ。漫画『ヒミズ』の話を茶沢景子から見た視点で書いた小説、というのがこの作品。
原作の漫画では住田の視点や夜野の視点、もちろん茶沢さんの視点からも描かれるから正直小説ならではの目新しい視点や出来ごとというのはラスト以外はない。ラストについては最後に書くとして、目新しいことと言えば漫画では描かれなかった茶沢の家庭の様子と住田の母親のことと警察官とのやり取りぐらい。
この漫画での本筋が住田の苦悩だとするならば、この小説では茶沢さんの住田を思う苦悩だ。決して茶沢さんの想いがゆっくりとはるかな流れなのではない。むしろ茶沢さんの住田を思う気持ちはかなり激しい。住田の母親がいなくなってしまってそのことを夜野から聞いた茶沢さんは「がんばれよ!!おい、がんばれよ!!」と激しく住田の肩を揺する。そんなふうに思っている人間の想いがゆっくりとしているわけはない。
茶沢さんは住田のことを激しく、強く思っていろいろと奔走する。住田の望む普通にするために自分が住田に出来ることを一生懸命考えて、住田を捨てた母親を探したり、夜野に声をかけたり。それは漫画でも映画でも描かれなかった一面であり、面白くはあった。
しかし、茶沢さんが住田に興味を持つ件が最初三分の一をしめるのだけど、それにどうしても説得力を感じない。漫画では茶沢さんは最初あまり重要な存在ではなかった。しかし後半は茶沢さんと話すことで住田が自分の気持を吐露しているし、住田が最後の時間を過ごしたのも茶沢さんであることから、かなりの位置をしめる存在になっている。
小説で存在の薄い人物をメインに据えるための茶沢さんの住田に対する気持ちを延々書かないといけないのはわかるが、やはりどうしてもそこはだれてしまっている印象がある。
しかしやはり原作が素晴らしすぎるし、登場人物が漫画で交わしているシーンと同じシーンは全く同じセリフを使っているので、茶沢さんの視点から住田が追い詰められていく様を見れて、漫画とは違った興奮はあって、非常に面白く読めた。
住田を問い詰めるシーンが幾つかあるが、そのセリフを言うまでの茶沢さんの心境が語られ、そのセリフがあるのでそういったシーンは非常に説得力があり、住田を客観視している気分になれて、目新しい。
うん、やっぱりこれはこれで『ヒミズ』を新しい視点で見れて、これは面白い。冒頭に否定から始めようとしてしまったことを撤回する。
漫画をものすごく読み込まれてて、それをうまく小説に転化できているから、これは小説版『ヒミズ』としては完全に成功なんだろうな。
またラストについてだが、やや蛇足な気がしないでもないが、やはり漫画と違ったラストにしないとわざわざ小説として出版する意味が薄くなってしまうからか、購入動機が弱くなってしまうからなのかな、と思った。だって漫画の『ヒミズ』はコレ以上の作品としての完成度はありえないし、映画版の『ヒミズ』はまったく別の作品だし。
新装版の『ヒミズ』(上下)もあわせて買ってあるので、それも後で一読しておこうと思う。
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