見る前からわかっていた。この漫画が僕にとって、『ヒミズ』が「漫画そのものであること」なのだからこの映画が僕にとって2012年一番の映画になることを。結果からいえば、そうなった。あと11ヶ月半今年はあるけど、この作品が今年僕が見た映画の中で最高傑作。
まず二階堂ふみ。彼女は宮崎あおい様に似ている。制服を着ているので、作品中しょっちゅう『害虫』かと思ってしまった。彼女のくらい家庭での扱われ方や部屋での過ごし方を見て。さらに言えば、東日本大震災が原作になかった一つの大きなテーマとして足されているが、青山真治監督作品の『EUREKA』で冒頭あおい様が「大津波がくる。いつかきっとみんないなくなる」と言うけど、これも思い出されてしまった。『EUREKA』は僕の人生の映画3作品において1位か2位に入るのだけど、二階堂ふみがあおい様に見えて、震災がテーマとしてある、という時点でもうこの映画の傑作は確定した。
また住田も住田そのもので、まったく違和感がない。
しかしそれだけではこの映画を語るには短すぎるしもっと言いたいことがある。
原作とおんなじシーンはかなり原作に忠実で、原作をある時期2,3ヶ月間で5,6回読んだのでほとんどのセリフを覚えているのだが、おんなじセリフが出てくるたびに震えたし、最初すこしウエーブかかっている茶沢さんの髪型がストパーになるのも全く原作通りで感動したし、茶沢さんの部屋に「お前の魂なんて金があればよゆーで買えるね」とか見えて、遅れて授業に来た住田の前で先生は訳のわからないことを喋っていて、それを茶沢さんが応援する一連のシークエンスは原作にはない流れだけど、原作の空気そのもので、僕はその始まって5分で号泣していた。そのあと何度も泣いたし、脈拍は上映が始まってから終わるまで常に90以上だった。この映画は僕がこの漫画を読んでいた時間そのものを思い起こさせ、ヒミズそのものだった。
終始呼吸が荒くて、落ち着く時間がなくて、これから起こることも全部知っているのに、見ているのが辛くて、目の前の時間が辛かった。
漫画なら自分のペースで読み進められる。だから僕は先言った2ヶ月は一日1巻がペースとしては限界で、一冊読み終わるごとに30分は何も出来なかったんだけど、映画は座っていればどんどんすすんで行くから、怖くて辛かった。それだけこの映画は漫画の『ヒミズ』そのものだった。
それでも少し残念だったのはきいちとあの後半に出てくるクズなおっさんとあの一つ目のデブがいないこと。おっさんと怪物は古谷実を古谷実たら占めているものだし、映画全体を通したとき、なくても全く不自然ではなかったけど、原作においてきいちが一般的な夢を目指す青年として、またそれを叶える青年として、まっとうな青年として出てくることで住田の追い詰められ感が出てきていてよかったんだけど、きいちがいない映画では本当に住田の苦悩する青春映画という側面が強くなる。原作のもつ生きることの絶望感というのはだいぶ薄い。しかしそれで作品が悪くなっているなんてことは当然無い。
また正造が映画ではおっさん(渡辺哲)になっている。最初おっさん(渡辺哲)があのクズなおっさんだと思っていて、夜野さん、って呼ばれても二役を一役にまとめたのかな、と思ってたけど、テル君の件でやっとあぁこのおっさんが正造なのか、と理解できた。おっさんの正造はそれはそれで映画として縦の変化がでて、それはそれでよかったように思う。そのテル君のシークエンスで強盗に乗り込む部屋にナチスの鉤十字が掲げられているのだけど、そのテル君は卍ラインこと窪塚洋介なのだった。まぁ鉤十字とナチスのハーケンクロイツはまったく別物だけどね。
役が変わっていたり出ていなかったり描かれないエピソードがあるからといってこの映画が原作漫画と比べてダメだとかいうことは全く無くて、何度も言っているがこの映画は『ヒミズ』そのものだ。
と思ってずっと見ていた。最後のシークエンスが近づくに連れて警察官さんが出て来なかったのは残念だけど(あの警察官の瞳がすごく怖くて、古谷実の絵の巧さを感じるのだけど)どきどきしっぱなしで呼吸は荒くて、今にも泣き出しそうな状態で体を硬直させながら見ていた。しかし、一人住田が夜部屋から出てきてことを成し遂げてからのシーンは原作と異なっており、その瞬間、それまでずっとこれは『ヒミズ』そのものだと思って見ていたにも関わらず、その最後のシーンを見て、これは『ヒミズ』じゃない!! 漫画の『ヒミズ』とは違う、映画としての最高傑作の『ヒミズ』っていう作品だ!! と思った。
つまり漫画の『ヒミズ』とは違うけど映画の『ヒミズ』として素晴らしい、と。
本当は10分間ぐらい席から動きたくなかったけど、そういうわけにも行かないので立ち上がったけど、虚脱感は半端無いし、とんでもない体験をしてしまった感がひどくて、一人9階のスクリーンを階段から降りた。
そして僕にとって漫画の『ヒミズ』はあまりに個人的な作品でこれを面白いとかいう人はいない、とか変な人と思っていたが、そうではなくて、やはり漫画作品として素晴らしかったのを感じたし、見聞きして、だからこの映画も一体誰が見に来るんだ、とか思っていたけど、公開2日目日曜の朝一の回でカップルはそこそこいたし、新宿バルト9の一番大きいスクリーンがほぼ満席だったし結構泣いている人もいたので、大衆的な作品とは決して言えないけど、今後の日本映画における青春映画として間違いなく歴史に残るものだと思った。
もう一回見に行きたいかと聞かれると、正直わからない。そもそも今日観に行って若干失敗したと思った。当然見に行かなければいけないとは思っていたけど、ここまで体力を使い精神的に落ちるなら、もっと準備万端で望めばよかったと後悔するぐらいだったので、それも思うともう一回はわからない。
しかし未見の人は必ず見に行かなければいけない。見終わったあと、漫画の『ヒミズ』は自殺したくなるが映画の『ヒミズ』はならないので安心していただきたい。
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